クッキングパパ展

クッキングパパ展 旅する。食べる。料理する。
2017年9月16日(土)~11月19日(日)[第1期]
2017年11月23日(木)~2018年1月14日(日)[第2期]

京都国際マンガミュージアム

「京都国際マンガミュージアム」で、23日から「クッキングパパ展 旅する。食べる。料理する。」第2期が始まった。うえやまとちによる料理マンガ「クッキングパパ」を、原画で紹介する展覧会。同作は、1985年に『モーニング』(講談社)で連載が始まって以来、30年以上にわたり、料理の楽しさと食を介した人々のつながりを描いてきた、現在も連載中の人気〈食マンガ〉である。

そもそも、マンガと食の相性はとてもいい。食べることが子どもたちにとって最大の関心事だった1950年代には、「コロッケ五えんのすけ」(杉浦茂)や「あんみつ姫」(倉金章介)といった食べ物に因んだ名のキャラクターが活躍した。〈食マンガ〉の一大サブジャンルである〈料理マンガ〉の登場は1970年代。料理マンガはその後、牛次郎作・ビッグ錠画「包丁人味平」のように、ケレン味たっぷりのバトルマンガとして発展していく。バブル期には〈グルメマンガ〉が登場、雁屋哲作・花咲アキラ画「美味しんぼ」などが、食材や料理のリアルな情報を楽しむことを提案した。近年は、食べること自体をテーマにしたマンガが人気。久住昌之原作・谷口ジロー作画「孤独のグルメ」や土山しげる「極道めし」などがその代表だ。

* * * *

「クッキングパパ」は、どちらかと言えば荒唐無稽なお話の多い〈料理マンガ〉に、〈グルメマンガ〉的リアリティを与えることで、新しいジャンルを作ったと言える。料理を趣味とするサラリーマンを主人公にした点も新しかったが、南信長が言うように、1977年に「男子厨房に入ろう会」が発足し、「男の料理」が流行りつつあったというのも、この作品がヒットした背景にあるのかもしれない。

「クッキングパパ」自体、作者自身が自宅兼仕事場の厨房で料理を作り、それを元にストーリーを考えていく、という特殊な過程で作られている。毎話、マンガの中に登場する料理が実際に作れるレシピが掲載されているのが特徴で、読者には、マンガのストーリーだけでなく、そのレシピをみて自分で調理する楽しみも用意されている。

マンガミュージアムでは、2008年より毎年、「クッキングパパ」に登場する料理を作者自身が調理して参加者と一緒に食べるという、音と香りと味をトークとともに楽しむイベントを開催してきた。今月にも、今回展示されているエピソードに登場する料理をテーマに10回目が実施されたが(その様子はYouTubeで公開中。)、展覧会では、過去9回分のイベントで作った料理が登場するエピソードの原画を紹介している。

* * * *

「クッキングパパ」はまた、福岡という、実在の都市を舞台とした〈ご当地マンガ〉としても知られている。毎回、最初の1コマ目かそれに近いコマに、その回の舞台となる場所の風景が描かれ、読者を作品世界にいざなう。単行本1~100巻に収録された968話を分析した吉村和真によると、この「冒頭コマの風景」のうち、「博多」といった表記などでそこが福岡県内であることを示していたのは665回、約69%だったそうだ。しかし、主人公たちは、県外、場合によっては海外にまで足を伸ばことも。今回の展覧会では、雑誌に掲載されたばかりの韓国・大邱(てぐ)広域市と中国・長沙(ちょうさ)市を舞台にしたシリーズの原画がひとつの目玉になっている。同展は、日中韓の文化交流を目的とした文化庁-京都市による「東アジア文化都市2017京都」事業の一部として開催されたが、実はこの2つのシリーズも、同事業の一環として両市を訪ねたうえやま自身による取材が元になっている。マンガの雑誌連載とマンガ展が連動するというのは、これまであまり例がなかった。

展覧会ではまた、取材の様子も大量の写真で紹介しているが、実際の料理が、作画スタッフによってどのようにマンガの絵として変換されているか、特に、モノクロで描かれているマンガが色彩をどのように表現しているのか、といった観点で見直しても、多くの発見があるだろう。

[初出=2017年11月24日『朝日新聞』(大阪版)夕刊「いまどきマンガ塾」]